歯ならびやかみ合わせの異常は、お口の中のみならず、全身に悪影響を及ぼすことが示唆されています。
『歯ならびが悪い』 ということは、『歯が並ぶのに必要な大きさに顎が十分成長していない』 ということです。
『あごの成長が悪い』 ということは、『その中に収まるべき舌のスペースがたりなくなる』 ということです。
舌のスペースが小さくなれば、どこかにはみ出さざるを得ません。
では、どの方向にはみ出すのでしょうか?
舌の上には上あごがあり、その中には骨があります。
前方には歯があります。
従って、その2方向には はみ出すことができません。
はみ出そうとした舌は主に奥にある空洞(のど)のある方へはみ出します。
のど(咽頭)は空気の通り道です。
つまり、空気が通りにくい状態になる → 呼吸しにくい状態になるのです。
その結果、
いびき、おねしょ、アトピー、アレルギー性鼻炎、喘息、扁桃炎、リウマチ、うつ、猫背や巻き肩
など、様々な病気・症状を引きおこす可能性が、一部の医師・歯科医師により示唆されています。
(詳しくは「歯ならび異常の影響」をご覧下さい。)
このことは徐々に国民にも認識されるようになってきているようで、当院に
「口呼吸が気になる」
「いびきをかく」
「おねしょをする」
などと訴えてお子様を連れて来られる親御さんが増えてきました。
かみ合わせが悪いと、咀嚼(噛むこと)に関係する筋肉が無理な動きを強いられるため、筋肉の緊張により痛みが生じいます。
参考)咀嚼に関与する筋肉
・下あごを持ち上げる筋肉:咬筋、側頭筋、内側翼突筋
・下あごを下げる筋肉:オトガイ舌骨筋、顎舌骨筋、顎二腹筋(前腹)、胸骨舌骨筋、胸骨甲状筋、甲状舌骨筋
・下あごを安定させる筋肉:外側翼突筋、顎二腹筋(後腹)、茎突舌骨筋、肩甲舌骨筋
咀嚼には上のように様々な筋肉が関与しています。
それらが緊張すると、筋肉のある部位(例えば肩こりや頭痛)を惹き起こす場合があります。
上下の歯がかみ合うことにより、傾きかけた体をストップさせる働きがあると考えられています。
つまり、かみ合わせが悪いと姿勢に悪い影響が出ます。
最悪の場合、日常生活に重大な支障を生じるほどの症状が出てしまうことも、少なからず報告されています。
かみ合わせの全身に対する影響は、決して珍しくはありません。
睡眠時無呼吸症候群とは、睡眠中に10秒以上の呼吸が停止、即ち無呼吸が5回以上繰り返される病気のことを言います。
昼間に眠い、いびき、起床時の頭痛などの症状が起こりますが、時に生命に影響を及ぼす場合もあります。
あごが小さく後退していることにより気道が狭くなることが、睡眠時無呼吸症候群の原因の1/4を占めるとされています。
就寝時に呼吸の状態が悪いと、血液のpHが酸性に傾きかけます。
しかし、血液のpHが変動すると生命に影響を及ぼすことから、pHはごく限られた範囲内から外れないよう、厳密にコントロールされています。
呼吸の状態が悪化すると、腎臓の働きによりpHを維持しようとします。その結果おねしょ(夜尿)をしてしまう、と近年言われています。
かみ合わせが悪いと、しっかり物が噛めず、充分に粉砕されないまま食べ物が胃に送られてしまいます。
その結果胃腸に負担がかかり、胃腸障害や成長への悪影響も考えられます。
岡山大大学院医歯薬学総合研究科のラットの研究で、
歯のかみ合わせが悪いと、アルツハイマー病の原因とされる「アミロイドベータ」と呼ばれるタンパク質が脳の海馬に増えることが発見され、平成23年9月15日に発表されました。
アルツハイマー病は、アミロイドベータと呼ばれる物質が脳の中に蓄積し、脳の海馬と呼ばれる神経細胞に影響を及ぼし、記憶障害を起こすことが一因とされています。
岡山大学の研究チームは
「歯が抜けたり、合わない入れ歯を使用している人は、歯をきちんと治療をすることでアルツハイマー病の予防や進行を抑えられる可能性がある」
としています。
・ 慢性上咽頭炎とそれによる諸症状(後述)
・ リウマチ
・ 誤嚥性肺炎
・ 高血圧や脳梗塞などの誘因になる
・ 呼吸障害 → 睡眠障害
・ 夜尿(おねしょ)
・ 糖尿病
なども起こりえます。
上咽頭とは、簡単に言えばのどの上の方(口を開いたときに見えるのどの上の、見えない部分)のことをいいます。
風邪をひいてのどが痛いときは、ここに一過性の強い炎症を起こしています(急性上咽頭炎)。
慢性上咽頭炎は、その部分が弱い持続性の炎症を起こした状態のことを言います。
痛みなどを感じず、場合によってはその部分に違和感すらないこともあります。
慢性上咽頭炎は、口で呼吸していると起こりやすいと言われています。
参考)慢性上咽頭炎により引きおこされる代表的な病気や症状
・アトピー性皮膚炎などの皮膚病
・アレルギー性鼻炎
・慢性関節リウマチ
・IgA腎症(透析が必要になることもある)
・潰瘍性大腸炎・クローン病などの腸の病気
・偏頭痛
・慢性疲労
・線維筋痛症
・まぶしいのが苦手
これらは従来、何れも治療が難しいとされていた病気です。
たとえば、ポータブル型ゲームや読書をすると、顔を下に向ける時間が長くなります。
すると、下あごが前に移動し、かみ合わせが変化します。
また、下を向いている時間が長くなると、首に影響が出ます。首には重要な神経が通っており、その影響で様々な全身症状の原因となる場合があります。
不用意な矯正治療によりかみ合わせに問題を生じ、長年苦しんでおられる方の報告例も散見されます。
一方、姿勢のゆがみはストレートネックと呼ばれる頚椎の異常の原因になります。
頚椎の異常は、それに沿って走行している椎骨動脈がたわむ原因になります。
椎骨動脈は主に脳の中枢部の栄養を担う、重要な動脈です。
この流れが悪くなると、脳への酸素などの栄養供給が悪化し、流れが悪くなれば脳の血管がつまりやすくなり、脳梗塞になりやすくなります。
また、高血圧の原因になり得る、という歯科医師の意見もあります。
矯正治療を受けられる場合は、ただ見た目をよくするだけの治療ではなく、細かい視点で診断できる歯科医院選択することが重要です。
東京科学大学の研究グループは、発達期の鼻呼吸障害が小脳の発達と機能に重大な影響を与え、運動機能低下や抑うつ様行動を引き起こすことをマウスで明らかにした。
アレルギー性鼻炎や副鼻腔炎、アデノイド肥大など、さまざまな要因によって引き起こされる鼻呼吸障害は、睡眠の質低下や顎顔面の成長への影響などにとどまらず、近年、脳の発達と機能にも影響を及ぼすことが示唆されている。
そこで、本研究グループは、発達期における鼻呼吸障害が脳の発達にどのように影響するのか、特に運動制御や認知機能、感情の調節に関与するとされる小脳に着目して調べた。
発達段階に片側の鼻を閉じた鼻呼吸障害のモデルマウスを作成して観察した結果、鼻呼吸障害マウスでは運動能力の低下や抑うつ様行動の増加が認められた。とりわけ、生後3日目から3週間目に鼻呼吸障害があると抑うつ様行動に影響を与えやすく、生後3週間目から7週間目に鼻呼吸障害があると運動機能に影響を与えやすいことがわかった。
また、この機序として、鼻呼吸障害マウスでは、小脳の不要なシナプス除去の過程の障害により、神経回路の形成が阻害されていることを発見した。さらに、小脳の神経細胞集団の活動が異常に同期しており、これらの脳発達障害が成体になっても持続することが確認された。
以上から、鼻呼吸は脳の正常な発達と機能維持に不可欠であることが明らかとなった。この成果は、鼻呼吸障害が単なる呼吸の問題を超えることを示し、小児期の鼻呼吸障害に対する早期診断と治療の重要性を再認識させるものである。鼻呼吸障害が脳の発達に与える影響のメカニズムも明らかとしたため、将来の治療や介入の新たなアプローチの開発につながる可能性も期待される。