虫歯や歯周病と同様、完璧な歯ならび治療(矯正治療)は存在しません。
日本の財政状況を考えると、今の健康保険制度が維持できることはあり得ません。
そのとき、予防に取り組んできたかどうかが、健康ばかりでなく生活・人生をも左右することは、疑いの余地がありません。
良い歯ならび・かみ合わせを実現し、それを長期的に維持するためには、少しでも早く予防的に対策を始めることが重要です。
妊娠中、出来れば妊娠前から様々な取組を行い、なるべく矯正治療の必要のない歯ならび、もし矯正が必要になっても、簡単な治療のみで済むよう、アドバイスや訓練を行うのが、『予防矯正』です。
歯ならび・かみ合わせの異常の多くは、遺伝ではありません。
もし遺伝であれば、歯ならび・かみ合わせ(以後:「歯ならび」と省略)の悪いお子様が増えることはありません。
しかし、現状は歯ならびの悪いお子様がどんどん増えています。
生まれてからの好ましくない生活環境により、姿勢が悪くなったりお口の機能が正しく発達できないことが、歯ならびに大きな影響を及ぼします。したがって、逆にお口の機能を早期に正常な状態にすれば、歯ならび異常を防いだり、軽減することが出来ます。
近年、妊娠中の母親の姿勢や骨盤の状態にも気をつける必要がある、と言う考え方もあります。
つまり、お子様が生まれる前から、もっと言えば妊娠を考えている時点から、すなわち
マイナス2歳から歯ならび異常の原因を作らないように心がける
必要があります。
これを 口腔育成 と言います。
三重県四日市市のさくら総合歯科では、以前から歯列不正・咬合異常の予防、即ち口腔育成に取り組んでいます。
それでは、どのように予防するかについて、以下にご紹介します。
以前は、噛む回数が少ないと骨が成長せず、歯が並ぶスペースがたりなくなる、すなわち歯ならび異常は硬組織(骨)の問題と考えられていました。
ところが、どう考えても食事に問題ないお子様でも、歯ならびが悪くなっている例を多数経験してきました。
一方、近年歯ならびは むしろ軟組織の問題、即ち筋肉の機能異常が主な原因である、という説が有力視されるようになってきました。
・ 唇を閉じずにポカンと口が開いたまま口で呼吸
・ 舌の機能異常
・ 噛む回数が少ない
・ 姿勢が悪い
・ 寝相(うつ伏せ寝)
・ 悪いくせ(態癖) など
以上が歯ならび・かみ合わせ異常の代表的な原因です。
詳しくは、歯ならびを悪くする原因(詳細)をご覧下さい。
これらの原因を修正するためには、これらがなぜ起こったかを考え、それに対してアプローチしなければ、歯ならびかみ合わせの異常は防ぐことができません。
今のところ、「これが原因だ」ということを証明する文献はありません。
しかし、ベテランの小児歯科医や助産師、熱心なベテラン保育士、発育発達を専門に見ている職種の人たちが、子どもたちの成長に悪影響を及ぼしていることについて、意見を交わし、現在情報が集約されようとしている段階です。
そして、さらにこの分野には一部の作業療法士や言語聴覚士も一緒に取り組む例も、見られるようになりました。
上に記載した原因を治すのは、実は大変です。
そこで当院では、生まれる前から様々なことに気をつけていただき、後々母子ともに苦労されないようにするための取り組みに力を入れています。
歯ならびを悪くしないためには、その原因となることを行わない、原因が既にある場合は、なるべく早くそれを除去・改善することが必要です。
そのためには、下記のような習慣等に注意することが必要です。
・ 口呼吸ではなく、鼻で呼吸する
・ 舌の機能に異常があれば、修正する
・ 清涼飲料水の摂取制限(スポーツドリンク・乳酸菌飲料を含む)
・ よく噛んで食べる必要のある食材を与える
・ ひとくちを少なめにし、よく噛んで食べる
・ 食事の最中に、水や牛乳を飲まない
・ 3度の食事の量をなるべく多くする(間食の与え方を工夫)
・ 前歯でかみ切る必要のある食材を選ぶ
・ 朝食を和食にし、しっかりと食べる
・ 態癖(悪いいくせ)を直す
・ 足指の異常を治す
・ 適切な靴の使用
・ 食事のは正しい姿勢で
・ 乳児の適切な抱き方
・ 乳幼児の適切な枕
・ 乳児の適切なおむつ
・ 妊娠時の座り方
・ 断乳を急ぎすぎない
・ 手づかみ食べをさせる
・ 妊娠糖尿病にならないよう、妊娠中の食事に注意する
これらの取り組みをなるべく早期から開始することにより、歯ならび・かみ合わせの異常を防ぐことが出来ます。
取り組み開始が遅ければ遅いほど、それまでの成長の遅れを取り戻すため、様々な装置が必要となります。
街中でお子様の口を観察していると、多くのお子様が口をぽかんとあいていることに気付きます。
口が開いていれば、知らず知らずのうちに口で呼吸してしまいます。
発展途上国の子どもたちの写真を見ると、ほとんどの子が口をきちんと閉じています。
発展途上国では母乳で育てるしか選択枝が無い場合が多く、しかも栄養状態が良くないので母乳の出もよくありません。
そのため、乳児は一生懸命 唇と舌に力を入れて、母乳を吸い続けます。
その結果、知らず知らずのうちに唇と舌が鍛えられ、3歳になるまでに正しい舌と唇の機能が完成します。
ところが、先進国では断乳が早すぎたり、哺乳びんを使用するため唇と舌の機能発達が不十分となり、その結果口を開けたままにしている子が増えているのではないか、と推測されています。
そこで、唇を鍛えるために、色々な運動や器具を使用して唇を鍛え、正しい歯ならびになる環境を整える必要があります。
あいうべ体操福岡県のみらいクリニック(内科)の今井一彰先生が考案された、唇と舌の体操。
唇等を訓練する方法は数多くありますが、どれも面倒なためほとんどの場合長続きしません。
そこで今井先生は、とにかく実践できない理由をなくすため、極限まで簡略化し、どこでも出来る簡単な体操を考案されました。
簡単ではありますが、実際に行ってみると当初は唇や舌の筋肉が かなり疲れます。
しかし、根気よく継続することにより、唇や舌の筋肉が鍛えられ、唇と舌の筋肉の機能が正常に近づきます。
今井先生は、この体操を有効に活用され、アトピーなどのアレルギー性疾患や、リウマチなどの自己免疫疾患などの治療(EAT)などの補助として使用しておられます。
あいうべ体操は簡単ではありますが、効果を侮れない素晴らしい体操です。
当院では、お子様だけでなく大人の方にもオススメしています。(院長も毎日行っています!)
ポカンエックス床矯正研究会が推奨している、唇でくわえる小判型の器具。
安価ですが非常に重要な器具ですので、矯正治療を行うお子様には一部を除いて必須と言えます。
慣れてきたら孔に糸を通し、それに携帯ストラップや5円玉等を結んで重りとすることにより、更に唇の力を鍛えることができます。
息を止めて歩く訓練を行います。
リットレメーター とじろーくん唇の力を測定する器具。
唇を鍛えるのにも使用できます。
唇を鍛える器具として、他に
・ とじろーくん
・ パタカラ
などがあります。
口の中に入れ、遊び感覚で唇と舌を鍛えることのできる装置。
トレーナーと異なり、起きているときのみに使用します。
遊び感覚で使用する器具です。
舌は本来上あごに接しているのが正常な位置と言われています。
矯正の必要なお子様の多くは、舌の位置が下に落ち込んだ「低位舌」と呼ばれる状態になっています。
したがって、舌の位置を直すことが歯ならびやかみ合わせ異常の予防にとって重要です。
口を閉じる訓練の項(上記)参照。
口を閉じる訓練の項(上記)参照。
舌の位置を正しく誘導するための訓練を行います。
食べものを飲み込むとき、舌は本来上あごに押しつけられるますが、歯ならびの悪いお子様の多くは、舌を前方にだしながら飲み込み動作を行っています。
したがって、下記の方法で飲み込み時の舌の運動を修正する必要があります。
ガムを噛んで軟らかくしたあと舌の上で丸め、嚥下ガムが上あごの後方に向かって薄く広がるように飲み込む動作を行う訓練(実際に飲み込むわけではありません)を行います。
舌の動きが正しくない場合、ガムは上あご前方にくっつきます。
注意:この訓練を行う際、砂糖入りのガムは避けなければなりません。(虫歯の原因になります。)
代替甘味料(アスパルテームなど)は副作用を懸念する意見があり、安全性の高いキシリトールを使用したガムをお勧めします。
水を飲み込む訓練などを行います。
頬杖や横向き寝、唇を巻き込んだりすぼめたり噛んだりすること、腹這いになって本を読む、爪を噛む、 指しゃぶりをすることなども、歯ならびかみ合わせの異常を引き起こします。
その他にも次に挙げる項目などが影響を及ぼします。
・ 舌で前歯を押す
・ ポータブル型ゲーム
・ スマホの使用
・ パソコンの使用
・ ショルダーバッグ
・ 横を向く時間が長い
したがって、これらについて必要があれば修正していただきます。
日本人が1日に噛む回数は、昭和初期に比べて約半分に減ったことは、食事「歯ならびを悪くする原因は?」のページで説明した通りです。
三度の食事をよく噛んで15分以上かけると、食後30から2時間くらい顔周辺の温度が上がり、活性化されます。
その結果、歯ならび異常の予防につながります。
清涼飲料水には多量の砂糖・ブドウ糖が含まれ、それを飲むことによりお腹がふくれ、その結果肝心の食事の量が減ってしまいます。
当然ながら、1日に噛む回数も大幅に減少します。
著名な管理栄養士 幕内秀夫氏は、子どもの健康を悪化させている最大の原因は、清涼飲料水とスナック菓子であると主張しておられます。
歯ならびをよくするためにも、水分の摂取はお水か麦茶・番茶のみにすべきです。
小さな食材は、前歯でかみ切る必要がありません。
あごの発育を促すためにも、前歯で噛む必要のある食材を与えることも重要です。
食事中の姿勢も重要です。
足がしっかりとつく状態で、姿勢よく食事をするよう心がけましょう。