上の前歯は通常下の前歯に覆い被さるように はえます。
それに対し、下の前歯が上の前歯より前に並んだ状態のことを 『受け口』 と言います。専門的には、反対咬合・下顎前突などと呼ばれています。
受け口は日本人の約4%に見られ、1年に約4万5千人の受け口の方が現れていることになります。
受け口は、多くの場合上唇の力や舌の位置の異常(低位舌)などが原因となり、
・ 上あごの発育が抑制され
・ 下あごの発育がより進んでしまうため
に起こります。(受け口は一部骨格の異常の場合もあります。)
皆様は、受け口のご老人を見たことがありますか?多分ほとんどの方は「ない」と答えられるでしょう。実際、受け口だった人が年を取ると歯が抜けてしまい、入れ歯になって前歯のかみ合わせが修正されてしまうため、健康な歯が揃った受け口の老人はほとんど存在しません。(前記東京歯科大学矯正歯科学講座の研究参照)
従来、受け口は『永久歯に生え替わるまで様子を見ましょう』 と放置されることが殆どでした。しかし、受け口は放置しておくと、ほとんどの場合どんどんひどくなります。したがって、
「この子受け口かしら?」
と思われたら、すぐご相談いただいた方が良いと思います。
低年齢児には装置は使えませんが、生活習慣指導や簡単な器具、体操などで対応し、それ以上悪くならないように、できれば改善するような対応を取っていきます。
装置を入れることができる年齢になったら、マウスピース型の装置や歯の裏側に固定する装置、取り外しできる装置などを使用します。
あごの成長は、まず上が先に前方成長し、そのあと下が成長、そして上の歯であたったところでストップするようになっています。
ところが、受け口の場合、先に成長すべき上あごが、下あごに邪魔され成長できず引っ込んだままになってしまいます。逆にそのあと成長する下あごが、上あごがストッパーとして機能しないため、どんどん前に成長してしまいます。
その結果、顔つきまで大きく変わってしまうなどの問題が生じます。
顔つきは、成長が終わってから矯正治療を開始しても(手術を併用しない限り)あまり変わりません。
いったん成長した骨は縮めることはできません。この場合、下あごの骨を切断して後方に下げる『下顎枝矢状切断法』を行わなければなりません。
この手術は、
・ 2週間から1か月入院する必要がある
・ 術前・術後に矯正治療が必要になる
・ 術後に顔がパンパンに腫れる(顔が一時的に相撲取りのようにまん丸になります)
など、結構大変です。
しかも、近年この手術をした後再び受け口が再発したり、体調を崩す、と言う報告が発表されています。
その問題が認知され始め、最近では上あごも切断し同時に前方に移動させる『Le Fort(ルフォー)T型骨切り術』も同時に行うケースが増えてきていますが、この手術は下あごの手術よりはるかに難易度が高く、さらに大変です。したがって、手術を避けるためにも 受け口は、とにかく早く治療を開始することが必要です。